Dr.伊藤のひとりごと

現代医療における望聞問切の重要性

東洋医学での診察法には望診、聞診、問診、切診といった4つの方法がある。

これを我々は望聞問切と言っている。昔は現代のような立派な医療器械などがなかったため、五感を駆使して患者さんの心身の状態に関する情報を集める必要があったのである。

望診とは視覚によって診察し、目の光、舌や皮膚や爪、頭髪の様子、動作や体格などを観察することである。聞診とは聴覚と臭覚によって診察することで、例えば体臭や口臭も参考になる。問診とはいろいろな質問をして患者さんの状態を確認することであり、これは現代の問診とほぼ同じである。切診とは手を患者さんの体に触れて診察することで、脈や腹部を触れたりする。これがいわゆる「手当て」手を当てると言うことである。

最近の医療の現場でしっかりこのような診察を行われているだろうか。時代はICTということでカルテは電子化され、医者は患者さんを診ないで、パソコンの画面を見たまま、患者さんに話しかけずにパソコンの画面に向かって話している。患者さんに手を当てることも少ない。すなわち、患者でなく病気を診ていると言われても仕方がない。患者さんも『先生こちらを向いて話してください』と言いたいが、なかなか遠慮してそう言えない。血液データや画像に異常がなければ、『今日は問題ないのでお帰りいただいて結構です』これでは医療不信が増大するのは当たり前である。

医者も、もっと丁寧に患者さんを診察しなければいけないことは分かってはいるが、多くの患者さんの診察をしなければならず結局は3分診療になってしまう。そばに医療秘書でもいて電子カルテにデータや会話内容を入力してくれたらよいが、経済的な問題もあり、なかなかそうもいかない。

決して昔の東洋医学がよいとは言っているつもりはないが、我々医療人はデータや画像重視でなく、もっと昔ながらの望聞問切の重要性を再認識し、患者さんに面と向かった優しい医療を心がけたいものである。