Dr.伊藤のひとりごと
「手当て」パート2。こどものおなかの診察法。
(2003年12月18日)
「手当て」に関連して子どものおなかの診察法について話してみよう。ほとんどの小児外科の先生はこどものおなかの診察が上手である。それは、子どものおなかの病気を見ることがとても多いからである。おなかの病気では大学病院にいるときもよく小児科の先生から相談を受けた。さて、肥厚性幽門狭窄症という小児外科の病気がある。それについては、ぼくの関連リンク集の小児外科の病気を参考にしてほしいが、この病気は生後1から2ヶ月ぐらいの赤ちゃんで胃の出口の幽門部に2cmぐらいの「しこり」があり、このしこりが胃の出口を圧迫して食物の通過が悪くなり赤ちゃんがミルクを飲んだ後に噴水状に嘔吐する病気である。この病気の重要な診断基準のひとつに幽門部腫瘤をおなかの上から触って見つけ出すことがある。論文では90%以上の確立でしこりが触れるという報告もある。しかし、またこれを触れるということが新人医師には難しい。小児外科の厳しい教育施設では、しこりが確認できるまで病室から帰ってくるなというところもある。迷惑なのは赤ちゃんであり、われわれが一人前になるためとはいえ、30分もおなかを触られるとおなかが真っ赤になっていることもよくある。看護婦さんにいい加減にしなさいと怒られることもある。この場を借りてこの病気でおなかを触られた赤ちゃん達に感謝とお詫びを言っておくことにする。日本ではまだこの病気でバリウムを使って食道胃透視をして診断している施設もあるが、アメリカではしこりが触れたらすぐ手術というところも多い。昔はこの病気の治療はほとんど開腹手術であったが最近は全例とはいわないが手術をしなくてもこの病気がある薬で治療できる時代になってきたことは喜ばしいことである。話は戻るが、「手当て」の話であるが、新人さんや慣れない先生はおなかを強く押してしまう傾向がある。子どもが痛がったり怖がったりするのでこれは良くない。前にも書いたが、おなかに手を当てるのが重要である。手は必ず温めておかなければならない。小さい子どもは横に寝せておなかを診察しようとするとほとんどが怖がって泣く。泣いているときはおなかが硬くて所見がとりにくい。そんなとき、ぼくは泣いていてもおなかにしばらく自分の手全体をそっと当てるだけにする。自分の気持ちを落ち着かせるために時々じっと目をつぶっておなかに手を当てるだけでほかに何もしないこともある。長いときは1分以上も手を当てる。笑われるかもしれないが、ぼくは目をつぶって子どものおなかに手を当てて、手を通じて「気」を送るというか、おなかに話しかけるようにしている。子どもはおなかが暖かくなってきて気持ちがよくなるのか、それともこのおじさんは敵ではないと思うのかふと一瞬泣き止む。その時点から始めておなかの診察が始まるのだ。おなかを押すときは指先3本で軽く押す。それから指先3本でおなかの周りを散歩する。強く押さなくても所見があるときはおなかがふと硬くなったり、ビクっとしたり、顔をしかめたりする。これがぼくのおなかの診察法である。小さなお子さんではお母さんに顔のそばでしゃがんでもらい、こどもの手を握ってもらい子どもが安心してから、診察すると結構うまくいく。長くなってしまったが、子どものおなかの診察も手を当てることが大切であるということだ。つづく。