Dr.伊藤のひとりごと
始まった2年目の外科研修
(2006年01月28日)
2年目の外科研修は目黒厚生中央病院で世話になることになった。外科グループはすべて母校出身の医者であり、消化器外科と小児外科、呼吸器外科、一般外科の各先輩先生がぼくを指導してくれることになった。研修医は僕の他に二人いた。一人は呼吸器外科からの1年上の先生でもう一人は3年上の麻酔科の先生であった。二人とも外科の技術に関してはぼくよりも上であった。
ぼくは主にK.H先生の指導の下で研修を受けることになった。先生はぼくの二番目の恩師である。K.H先生は大学の先輩で大学では小児外科を専門として助教授までやられた先生であった。先生は頭がつるつるのお禿げになっており、50代後半であったが、年齢よりは老けて見えた。性格はすべてに対して大変まじめで厳しい先生で、いわゆる昔の頑固親父先生であった。聞いた話ではとても若い奥さんがいて仕事が終わるとほとんど同僚とは付き合わずすぐに帰宅するという愛妻家とのことであった。先生は他の先生とは違い、大学から出ても学会発表や論文投稿や医学書の執筆をしっかりやられており、その下についた先生は当然のごとく学会発表や論文掲載を強制的にやらせられた。今思うにK.H先生の出会いが将来のぼくの学術への好奇心を持たせてくれたと感謝している。KH先生を堅物などとお酒の席で悪口を言う先生も多かったが、ぼくは先生が大好きであった。それはおそらくK.H先生が小児外科の先生であったからだと思う。先生は小児患者においては妥協など一切なく非常に厳しかった。小児鼠径ヘルニア(脱腸)の手術でもその歴史から始まり、その術式の利点や欠点など丁寧に説明してくれた。30年たった今でもそのことは忘れずに覚えている。
K.H先生から学んだことは基本を大切にしなさいということである。彼の教えではいくら手術が上手そうに見えても基本がしっかりしていない先生が多く、例えばケリー(これは手術器具で組織をセパレートしてそこに穴を開けてこの器具で手術用の糸を摘んでくるときなどに使う)の先端がどれぐらい組織や血管から突き出しているかでその先生の手術の丁寧さがわかると教えてくれた。すなわち先端が5cmも出ているのはかなり荒い手術をしていることになる。ぼくはこの話を聞いてから、手術の際にすべての外科医の技量をみるときにいつもこれを基準にて判断した。いくら手術が早くても荒い手術をする先生は、いつか必ず大きな失敗をする。すなわち上手でなくてもよいから確実な手術をするべきであると考える。基本を大切にするということはすべての道に通ずることである。